2026/08/10 17:35
ALPS BOOKSインタビュー企画「十山十色〜人それぞれの山もよう〜」。山に親しむ人の心身のコンディショニングをテーマにした書籍『ヨクキク山ヨガ』の出版に際し、山に深く関わる皆さまの貴重なお話をご紹介いたします。今回お話を伺うのは人気登山YouTuberやぎちゃんです。

登山YouTuberとして人気を集めるやぎちゃん。その活動は自身のチャンネル「やまくっく・やぎちゃん」での動画発信だけにとどまらず多岐にわたります。
最近は穂高駅前にオープンした「きなこハット」に注力中。土日祝日をメインに早朝から山へ向かう人たちを送り出しています。今回はそんなやぎちゃんに、きなこハットの近況やこれまでの来歴、ヨクキク山ヨガを体験した感想などを伺いました。※記事中の写真はすべてやぎちゃん提供。
早朝から、登山者を送り出す場所

――きなこハットオープンおめでとうございます。すごい賑わいですが、オープンしてみていかがですか。
始める前は、みんなが来てくれるようになるまで少し時間がかかるかな、と思っていたのですが、おかげさまで初日から盛況です!らいちょうサブレが特に人気で、それを買いに来てくれるお客さんが結構多いです。以前から応援してくれている人たちもたくさん来てくれて本当に嬉しいです。

あとは散歩中の地域の人たちが来てくれるのも嬉しいですね。この辺で浅煎りのアイスコーヒーを売っているところがあまりないみたいで、地元の方が「すごくおいしかった」と言ってくれて。最初は普通にカップで買っていった方が、次の週にはボトルを持ってきて、「仕事中に飲みたいので、これになみなみ入れてください」「2杯分入れてください」みたいに言ってくれることもあります。

――コーヒーも人気なんですね。食べ物や飲み物って、反応がすごく正直に出ますね。
そうですね。だから、地域の人にこんなに受け入れてもらえると思っていなかったので、驚いています。テレビに出演させていただいていたり、新聞社さんが取材してくれたりしたことも大きかったと思います。朝のお散歩、犬の散歩、ジム帰り、ランニング中、出勤前。そういう感じで来てくれる人が多いです。
きなこハットは交流の場
――ただ買い物をするだけじゃなくて、人が自然に集まって話している雰囲気が素敵です。
そうですね。交流の場になっていると思います。来てくれる人たちは本当にいい人ばかりなので、そこで自然につながって、山や地域の情報を交換しています。情報ノートのようなものも置いています。ただ、夏は暑いので、熱中症には気をつけてほしいです。日陰はつくりましたが、無理せずきなこハットでの時間を楽しんでいただければと思います。
登山前はきなこハットで一息ついて、らいちょうサブレをお守りとして山へ連れてってくれたら嬉しいです。売り切れてしまうこともあるので、早めに来てくださいね!

10月からは出張きなこハット
――きなこハットの今後の展望はどんな感じですか?
まずは、このきなこハットを9月までワンシーズンしっかりやります。山へ向かうみんなに喜んでもらえるようにがんばります。10月は松本・安曇野の音楽祭があって、それから大阪、東京、名古屋、福岡、埼玉などへも行く予定です。ゆくゆくはゲストハウスや、アジトみたいな場所もやりたいんですけど、まずはきなこハットでいろいろなところへ行きたいと思っています。
――これからが楽しみですね。
はい。これからが楽しみです。
始まりは、ワンゲル部でのたこ焼き
――やぎちゃんのことをあまり知らない人のために、これまでのことを聞かせてください。最初に登った山は覚えていますか。
一番最初は、たぶん竜ヶ岳です。大学に入ってワンダーフォーゲル部に入って、新入生歓迎登山がそれだったんです。でも、それまで山には全然登ったことがありませんでした。山用の服もなかったので、普通のTシャツで行きました。リボンのついた、かわいいTシャツでしたね。
――そもそも、どうしてワンダーフォーゲル部に入ったんですか。
もともとはダイビングをやりたかったんです。小さい頃から水泳をやっていて、高校の修学旅行でオーストラリアに行ったとき、ケアンズでシュノーケリングをしたら海がすごくきれいで。大学生になってお金と時間ができたら、ダイビングをやろうと思っていました。それで大学に入って、ダイビングサークルの扉を叩いたんですけど、結構やんちゃな感じのお兄さん、お姉さんが多くて。「ここは私のいる場所じゃない……」と思って、隣の部室に逃げ込んだんです。そこがワンダーフォーゲル部の部室でした。
――たまたま入ったんですね。
そうそう。薄暗くて、ほこりっぽい部室で、先輩たちがたこ焼きを焼いていました。
「新入生来てくれたよ」
「たこ焼き食べる?」
と言われて、「食べます」と。
たこ焼きに釣られましたねー。そこで「新歓登山があるよ」と言われて、行ってみようかなと思って。それが山を始めたきっかけです。
山の入り口はたこ焼きとおにぎり
――初めての山はどうでしたか。
もともとスポーツをやっていたので、つらくはなくて。楽しかったです。みんなで山を登って、景色を見て、おにぎりを食べて。そのおにぎりがすごくおいしかったのを覚えています。やっぱり食べ物ですね。山で食べるおにぎりは最高でした!山と食べ物が一緒にあると、楽しいんですよね。私にとって山の入口は、たこ焼きとおにぎりなのかもしれません。

山を仕事にするために、長野へ
――その後、会社員として働きながらYouTubeを始めて、長野へ移住されています。経緯を簡単におしえていただけますか。
もともと「起業したい」という気持ちがありました。でも、いきなり会社を辞めてフリーランスになるのは不安定だと思っていて。私は結構、石橋を叩いて渡るタイプなんです。自分のやりたいことを実現するには、ある程度お金も必要だし、人に知ってもらうことも必要だと思っていました。だから、将来お店を開いたときに人が集まるための知名度と、開業資金をつくるためにYouTubeを始めました。

入籍してから数か月後くらいで東京から長野へ転勤する話が出て、「夢の長野に転勤になりましたので、私は行きます」と夫に伝えました。「一緒に来るか来ないかはあなたの人生なので、好きにしてください」とも。
結婚して間もないのに夫を置いて一人で長野に行く、ということに対しては、いろんな意見があると思います。
でも、結婚したからといって、自分のやりたいことを諦める必要はないと思っていました。「そういう生き方もあるよ」ということを発信していくことで、それを見てくれた誰かに、何かを考えるきっかけを与えられたら嬉しいです。
――やりたいことを貫いた結果の今なんですね。
そうですね。長野に来てからは、山の発信もしやすくなりました。YouTubeも軌道に乗って、地域の仕事も広がっていき、その後、会社を辞めて独立しました。自分に素直にやりたいことを続けたから、ここまで辿り着けたのだと思っています。

動画にはない、写真がもつ力
――チャレンジの連続ですね。すごいバイタリティだと思います。他には何か力を入れていることはありますか。
ここ数年はしょっちゅう山で写真を撮っています。写真家になりたいというより、物事を伝えるツールとして、写真ってすごく可能性があるなと思っています。

いつか、写真集を出したいんです。ライチョウの写真集。これまで、自伝のようなものや、登山入門のような本を出しませんか、という話をいただいたことはありました。でも、そういう本はすでにたくさんありますし、私でなければいけないのかなという気持ちもありました。でも、ライチョウの写真集は出したいです。

私がカメラを始めるきっかけになったのが、動物写真家の佐藤圭さんの写真集だったんです。表紙の写真がすごくかわいくて、「動物ってこんな表情をするんだ」と思って、初めて人の写真に興味を持ちました。それから写真を勉強するようになって、人生が広がりました。私は、一枚の写真で人生が変わった一人なんですよね。
だから、自分の一枚で誰かの人生が変わるかもしれないと思うと、すごくワクワクします。動画を見て「山に行きたい」と思ってもらえるのはもちろん嬉しいです。でも写真は、もっと長く、その人の生活の中に残るかもしれない。そういうものも、作ってみたいんです。
初めての山ヨガ。「つらくないのに、知らないところがのびた」
――今回は、実際に山ヨガも体験していただきました。初めてのヨガ、どうでしたか。
楽しかったです!意外と体がポカポカしました。走っているわけでもないし、激しい筋トレというわけでもないのに、体がじんわり温かくなって、すごく体に良さそうな感じがしました。あと、いつも絶対に使わない筋がのびました。ライチョウのポーズとか、「どこだかわからないけど、生まれて初めてここがのびている」みたいな感じで(笑)。
――だいぶガッツリやりましたが、つらくなかったんですね。
大変なポーズもありましたけど、体力的にはつらくなかったです。いろんなレベルの人ができそうだなと思いました。それに、「無理しなくていい」と適宜言ってくれたので、安心してできました。「ここまで届かなきゃいけないのかな、でも大変だな」とか思ってしまうんですけど、そんなにがんばらなくてもいいのか、と。
――そこは、今回の本で大事にしているところです。がむしゃらにがんばるのではなく、できる範囲で安全に楽しんでほしいんです。
そうですよね。今日やってみて、ちゃんと体に効いている感じはあるんですけど、追い込まれる感じではなかったです。続けやすそうだなと思いました。

毎日やったら変わりそう
――ヨガは初めてとのことでしたが、とてもよく体が動いていたと思います。
でも、かかとを上げる動きとか、すぐにはできなかったじゃないですか。ああいうのは、ちょっと燃えますね。毎日やったらできるようになるんでしょうか。
私は結構せっかちなので、10秒じっとしているのも苦手なんです。ストレッチ動画も1.5倍速でやってしまうくらい。普段は寝る時間ももったいない、みたいな感じなんです。でも、今回のヨガはのんびり楽しめました。自分の体なのに、自分の知らない場所がもっとあるんだろうなと思います。ただ、私が毎日やるなら、10分くらいだとありがたいかもしれません。それくらいが続けやすいです。
――毎日コツコツ続ければ、大体のことはできるようになると思います。本では10分くらいのシーケンスも紹介しますので、楽しみにしていてください。
山にしばらく行けないと、ちょっと不安になるんです。10日も山へ行っていない、体がなまっていないかな、と思って、近くの低山に行っておこう、となる。そういうときに、家でヨガができたらいいですね。
長く山を楽しむために、無理をしない
――今作っている本『ヨクキク山ヨガ』のメインテーマは、「みんなでいつまでも楽しく元気に山を楽しみたい」です。山を長く続けるために大事なことは何だと思いますか。
無理しないことだと思います。無理して怪我をして、一生登れなくなったら悲しいですし、岩場なんかで落ちてしまったら、それで終わりです。だから、無理しないことが大事だと思います。今日ヨガをやってみて、いろいろな部分がストレッチされたり、適度に負荷がかかったりするのがわかりました。これを毎日続けていたら故障とかは減りそうだなと感じました。
私は山にたくさん登っていますけど、いつも同じ筋肉ばかり使っている可能性はありますよね。いざというときに、慣れない動きをすると踏ん張れないこともあるかもしれない。だから、普段使わないところをちゃんと動かしておくことは大事だと思います。
あと、バランス感覚がすごく鍛えられそうですよね。山では、体重に加えて機材や荷物を背負います。45キロの人が15キロの荷物を背負ったら、60キロになります。その状態で下山したり、足場の悪いところを歩いたりするには、バランス感覚が大事です。そこは鍛えていきたいなと思いました。
――無理しないためには、自分の体を知ることも大切だと思います。
そうですね。ヨガは、自分の体を知るにはすごくいいかもしれないです。自分はこれくらいの動きならできる、そういうことがわかるようになってくると、自信もつくと思いました。
自分の体をよく知っていれば、たとえば下山のときに膝が痛くなってきたとして、「このあたりが痛いということは、ここに負荷がかかっているのかもしれない。次は登り方をこう工夫してみよう」と考えられるようになるかもしれませんよね。そうなったらもっと山登りが楽しくなるかもしれません。
――本当に山が好きなんですね(笑)。
はい。本当に山が大好きです!

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明るく親しみやすいキャラクターの奥にあるのは、自分の人生を自分で切り開いていく強い意志と行動力。インタビューでのお話からもやぎちゃんのポジティブなエネルギーがビシビシ伝わってきました。これからも、楽しい山動画を楽しみにしています。お忙しい中、時間をとっていただき本当にありがとうございました。
山に深く関わる人からお話を聞く「十山十色」。次回は上高地西糸屋山荘社長、奥原宰さんです!
話してくれた人 やぎちゃん(やぎちゃん)
1993年生まれ、静岡県出身。登山YouTuber。YouTubeチャンネル「やまくっく・やぎちゃん」で、初心者にもわかりやすい登山情報や山の楽しみ方を発信している。動画制作以外にも、企業・自治体の地域プロモーション、イベント企画、講演活動など幅広く活動し、近年は野生動物や山岳風景の撮影にも力を入れる。2024年に、山岳風景と野生動物をテーマにした写真展「彩とりどり〜山岳風景と野生動物〜」を開催。2026年7月に、長野県安曇野市・穂高駅近くに、登山者のための拠点「きなこハット」をオープン。
話を聞いた人 鳥井ナオキ(とりい・なおき)
日本アルプスを望む信州辰野で、心と体によりそう本を作る出版レーベル「ALPS BOOKS」代表。松本市で日本アルプスヨガセンターを主宰し、ヨガの普及に努める。アシュタンガヨガ正式指導者。ヨガの実践・指導を10年以上続けている。訳書にアシュタンガヨガの教本『AṢṬĀṄGA YOGA ANUṢṬHĀNA』、同流派最高指導者R. Sharath Jois氏による自伝的健康マニュアル『AGELESS』(共にR. Sharath Jois著)がある。

ALPS BOOKS第一弾書籍『ヨクキク山ヨガ』は、山に親しむ人がこれからも末永く山を楽しむために、体と呼吸を整える一冊です。
山へ向けた日々の準備の一環に
山から帰ったあとのケアに
次の山へ向かう力を育むのは
無理なく続けられる小さな習慣の積み重ね
そんなテーマを掲げています。

